アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

エメラルド・タブレットのビジョン

寝ているとき、あるいは寝入りばなに、何かが来ることがある。
昨夜、と云っても今日だが、今日の深夜も、寝ている私のところに何かが来た。衝撃が伝わってくるので、起こされたような感じである。驚きはあるが、そういうときに、怖れずに向き合うことが自分の課題だと思っているので、状況のなすがままに任せた。それは、私の口の中に入ったようで、ちょうど歯医者がドリルで歯を削っているような、強烈な振動と音が響き渡って私の口内が揺すぶられた。その振動と音が、光や色彩になって飛び散るのだ。これは、現実に(風邪の症状として)口内の弱い痛みが続いていることが、激しく増幅された形で表現されたことは明らかだが、その後、天井正面辺りに、正方形の平面が現れて輝いた。エメラルド色というのか、闇の中で白っぽい緑に発光して、ちょうど、こどもの頃遊んだ、蛍光塗料を塗った骸骨の人形の怪しい光に似ている。そのUFOのようなものは、平面的ではあるが、正方形のなかに複雑な構造を示していて、それが一時も留まることがない。それに続いて、右上方に、同じような質感の長方形の平板が現れた。その輝きも、全く同じ白っぽい緑色なのだが、その板には、複雑なレリーフが浮き彫りになっている。マヤやアステカのレリーフに似ていると思って、詳しく見ようとのだが、そのレリーフも、生きているかのように、絶えず流れるように変化して行く。特に後半は、意識がはっきりし過ぎて、覚醒している状態と変わらず、夢と云うよりも、ビジョンと云った方が正しいと思った。

朝起きて、ヘルメスのエメラルド板(タブレット)のことかと思った。ニュートンはその生涯の中で、錬金術の炉の前に座って作業している時間に一番充実感を感じていたらしく、我々の知る力学や光学などの今で云う物理の研究に負けず劣らずその精力を注いだという(イギリスの科学思想史家ドブスによる研究がある)。そのニュートンが他の錬金術師同様に重視したのが、エメラルド板に書かれていたという文章で、ニュートン自身による(おそらくラテン語から)英語への翻訳も残されている。先日、不思議な実験結果を得た自分は錬金術師としての自覚をもつべきなのかも知れない、という意味の文を書いた。その返答を受け取ったのだろう。

昨日は、寝る前に、「カラマーゾフの兄弟」で、ゾシマ長老の遺言(アリョーシャがまとめたもの)の部分を読んでいたのだが、その間涙が流れ続けてしかたがなかった。「カラマーゾフ」はやはり、ドストエフスキーの作品の中でも、特別な霊的に濃い内容の作品だと思う。ゾシマ長老の述べるロシアの大地のもつ霊性への信仰は、実はシュタイナーも強調していて、ロシアは地球のなかでも特に霊界からの光が反映した地域であると述べて、未来の人類の霊的な決戦におけるロシア人の役割に期待している。その意味でも、ロシア革命は衝撃的な事件であったようだ。

ロシアの大地に土着化したキリスト教としてのロシア正教ドストエフスキーは人類の救済を託していたのかも知れない。そう言う国粋主義を私は決して悪いとは思わない。錬金術とは、もちろん直接は結びつかないが、ビジョンを呼ぶきっかけとして、この作品が作用したような気もしている。この日記も段々神がかり的なってきたが、ゾシマ長老自身、人々に神がかりと云われることを怖れてはいけないと遺言している。