アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

黄金律

同情も慰めも不在の荒野を彷徨う
傷ついた犬の幻を追って
実在しない老婆が教える泉の水を飲んでしまう
行方知らずの娘は洞窟の老婆? 
時間と経験の洞窟で死んだ老婆はデンマークの城で目覚める
新しい少女として
犬だけが傷を負ったままだ
荒野の父は過去に置き去りにされる
果たされぬ夢
背理の情熱
突然音楽が奏でられる
人間は誰と孤独を共有すればいい?
錬金術の徒労と達成
人知れず技術は失われるだろう
しかし言葉は死ぬことがない
それに気付くことが死ななかった錬金術師の宿命だった

「個人的経験」がなにか鉱物的な存在として
異物として
時間のなかに居場所を失ったとき
それは言葉のなかに生命を見出そうとする
死んだはずのものたちが再生してくる
ロゴスの力が発揮される
死んだ者は蘇らなければならない
言葉として
そのときもはや死は存在しない

言葉は立ち止まり
歩き
又立ち止まり
早足になり
急な坂を駆け下り
転ぶ
言葉の痛覚は絶えざる動きの中にある
言葉たちは独立を保ち
訓練された踊り手たちのように
ばらばらと駆け寄って
やがて調和し
そして昇華する?

  *

同情も慰めも不在の荒野を彷徨う
あなたも泣くことがありますか?
そのとき堰き止められていたなにかが決壊する
あるいは堤防に小さな穴が空いて流れ出す
涙腺と鼻孔の密通
過去を呼び醒ます嗅覚の魔法
視覚の裏側でまどろむもの
われわれの身体のなかで眠っていた時間
傷ついた犬が覚醒する