アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

地中の城(第二稿)

 1

全ての物理現象は音楽的性質を帯びている。つまり物質は音楽の性質を帯びているから瓦解しないのだ。前期量子論アポリアの解決。肉体の死とは物質界における人間から音楽が去ることです。音楽が突然終わる。あるいは静かに減衰していく。

人が知ろうとする〈私が思考し意志していること=私〉と〈私自身が人から見えているだろうと想像する私〉のギャップは測りがたい。スピンクスは自死し、オイディプスは呪われる。〈私〉の謎を巡るゲームの痛々しさ。
 
    2

なぜ彼らには飛べてわれわれには飛べないのか? その違いはどうやら〈毛〉の違いにあるらしい。単に夥しいだけの毛を生やしたわれわれに飛べるものはいない。かれらの羽毛。かれらはいわば、われわれの怠惰な毛を、飛行への意志によって美しい羽毛にまで変えたのである。被造物の意志?

羽毛が先か翼が先か。有機体の階層構造はすべて同時に形成される。それぞれの独立性を保ちながら。翼の優美な運動は体毛のエロスを振り払う儀式に似ている。世界はそのようにしか風を切ることができないのだ。しかしそれが飛翔ということ? 

死に向けて落下するには? うすく体毛を生やしたわれわれの死はどこまでも水平だから苦しい。

    3

信じることは苦しい。暗闇で答えぬ者を相手にすることは。
   
    4

意志とは形を変えた記憶である。記憶は決して失われることがない。その姿を変えてしまうだけだ。そして再び現れて、人の運命を支配する。しかしそこでこそ自由が、磔刑に処せられた自由が復活するのだ。われわれの手足の聖痕。
    
    5

『地中の城』という詩を書かなければ。それはきっと地中のドッペルゲンガーについての話になる。しかし城は何のためにあるのだろう? なぜそれは隠されなければならなかったのか? 苦しみの根源である地中に隠れたドッペルゲンガーが地上にあらわれてモグラのように太陽の光の下で死んでしまうという〈宿命〉について。