二十一世紀の高野悦子は深夜の貨物列車を待つ
紫陽花の露に濡れながら
佞人と告解者の群れを踏み殺しながら
一台の蒸気機関車が
時間の軌道上を正確に近づいてくる
1969年
山陰本線京都梅小路発山口・幡生行き下り貨物861列車は
二十一世紀の瓦礫に喘いでいた
時間を数えることは不吉だ
タール臭い枕木の上にうずくまる
二十歳の胎児を轢死させる
生の強迫観念
爆走し去って行く
蒸気機関車が
二十一世紀の瓦礫を積んで
1969年のあなたの前に帰って来る
二十一世紀の高野悦子をオルフェウスは見出す
昔もオルフェがいた
これから先もいるだろう
今のオルフェが私だ
何千年も前から私は悲しかった
籠の鳥のようだった
私自身が私にとって大きな謎となり
私は自分の魂にたずねた
どうしてこのように悲しいのか
またどうしてこのように私を苦しめるのか
六千八百人のオルフェがあなたを探しに来る
桜桃のように甘いあなたの唇
六千八百人のオルフェが一斉に振り返る
バリケード封鎖された冥府の門
六千八百人のオルフェが突入する
自己否定の塔から溢れ出すノアの洪水
*
二十一世紀の高野悦子は朝焼けの真珠母雲を見る