胸のなかに薔薇が咲く
影絵のような生のさなかに
花開く一輪の薔薇に
私の指は触れることができない
見えない棘が吸い続ける
血の色をした薔薇の花弁に
私の唇は触れることができない
この生に目醒めることは永遠の謎だ
私の生の廃園のなかで
汚れた月光の照らす世界で
赤い薔薇だけが一輪
いつまでも枯れることがない
ダンテによれば
地球の中心
地底の精神の中心には地獄があり
堕天使ルチフェルが呻吟しているという
彼の巨大な胸郭のなかで
夥しい血が流れ続けているという
しかしそれがいつか
赤い薔薇に変容するときが来ないとは
誰にも断言することはできないはずなのだ
夥しい花弁の幻惑
階層のシンメトリイ
私の胸のなかで今日も花開く
一輪の赤い薔薇よ!