アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

薔薇

時間とは何だろうか? もし自分に肉体がなければ、時間はどこからやってくるのだろうか? 肉体の死を意識しないものにとって、時間は支配者では無い。古代ギリシャ神話における不死の神々の祖はクロノス=時間であった。神々の不死性は、しかし、クロノスの不在に負っていたとしか思えない。死すべき人間に、神々は時間という認識の枠組みを課せられた。空間と時間は認識の形式ではなく、死すべき人間が背負う十字架なのである。認識の黒い十字架を背負って歩むわれら。その同伴者は誰か?

あらゆる指標が時間を指し示す。それを意識することは苦しい。生の導火線を走る火花を追い続けることは。記憶と忘却の間を走り続ける火花の行方。火花の後ろに続く長い灰色の線。

塔あるいは伽藍。幽閉と解放。精神と肉体。肉体の塔を昇っていく精神。精神の伽藍を追放される肉体。虚空の広がりに吸収されていく魂。百舌鳥の叫び。

歴史の尖端に突き刺さった速贄。われわれの心臓が滴下する血の刻む時間。秋の夕暮れは朱く。静謐は微かに震えている。
    
「神が創造の時、その恩恵によって與へ、また彼の善に最も適ひ、且つ彼のいと尊び給ふ最大の賜は、自由意志であった。これは理知ある被造物凡てに、そして彼等にのみ與へられる。」
 
広大な宇宙の闇に胚胎し、
やがて芽吹き、
静かに顔を上げるもの。
薔薇よ!
認識の黒い十字架の上に咲き誇る、
七つの赤い薔薇よ!