アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

九電・玄海原発だけではない。耐用年数をとうに越えた福井県・関西電力・老朽化原発の圧力容器爆発による日本国家壊滅の危険性について。

金属学の井野先生が、九州電力・玄海原発の危機的な状況を警告していることは、前回書いた。今週の「週刊現代」7/2号で、井野先生が再度、老朽化した原発の危険性を警告している。耐用年数を過ぎて、米国やドイツなどではとうに廃炉になっている原子炉を、日本の電力会社(九電、関西電力日本原子力発電)は未だに運転し続けている。

圧力容器内部で進行する核分裂反応に伴って放出される中性子は、その際に解放される核子(陽子と中性子)の膨大な結合エネルギーを担っている。通常の化学的エネルギーの100万倍以上の高エネルギーの超高速中性子である。このエネルギーを緩衝材(日本では通常は水)によって緩和し、この結果、加熱(数百度、加圧水型)された水に担われた熱エネルギーを利用して水蒸気を発生し、その水蒸気で発電機タービンを回し、発電する。この際、加圧水型原子炉では、この一時冷却水が数百気圧に加圧されている。

ここで、核反応にともなう中性子の収支が最大のポイントで、原子炉の基本原理は、この中性子の収支(発生、吸収、漏洩)をいかに制御するかにあると言っても過言ではない。しかし、核反応サイクルから漏れ出た中性子が、圧力容器や炉の構成部品を照射することは避けられない。この状態が長く続くと、中性子照射損傷という圧力容器材質の欠陥が増加し、金属が本来持っている延性(叩いたり引っ張ったりすると延びる性質)が失われ、脆性(ガラスのような脆い壊れ方をする性質〉を示すようになる。この脆性劣化を示す指標が、脆性遷移温度で、健全な金属ほどこの温度が低い(詳しくは以前の記事参照)。しかし、玄海原発では、それがすでに98℃に達していることが明らかになった。これは、前回も述べたように、金属学を学んだ人間には、信じられない値である。ボロボロの状態だ。本来、脆性遷移の実験は、液体窒素(−196℃)で金属を冷却して行うものである。このボロボロの原子炉圧力容器が数百気圧のストレスに耐えながら稼働している。ここで、福島の場合のような、冷却系統の故障が起きても、もはや、外部からの冷却は、脆性破壊をもたらす可能性があるので、手のつけようがなくなるだろう、それ以上に、このようなボロボロの炉体が、もはや数百気圧の圧力に絶えられなくなって、爆発する可能性を井野先生は危惧している。その場合、内部の燃料の飛散は福島の比ではなく、もはや日本壊滅だけではなく、韓国や中国などの隣国にも深刻な汚染をもたらすだろう。そこまで事態が進めば、もはや日本は国家として立ち行かなくなり、民族独立どころか、国連の名の下に分割統治される悪夢も十分考えられるだろう(この原発事故の拡大に伴う日本国家の滅亡は、井野先生ではなく、私の見解である)。

今回、週間現代の記者が、井野先生が提示した以上の問題を九電に正したが、九電広報部の回答は、「炉内試験片の脆性遷移温度は98℃だが、容器本体の推定値は80℃、60年運転を続けても91℃と推定され、これは「日本電気協会」の定めた基準(93℃)を下回っており、安全性に問題があるとは思わぬ」というものであった。

彼らの安全性の論拠が「日本電気協会」の定めた値だという。もはや、電力業界のインチキさを知ってしまったわれわれにはお笑いぐさでしかない。「日本電気協会」、つまり、自分たち自身の都合で決めた基準に従っているから安全だと主張している。金属学の専門家である井野先生や、金属学を学んだ人間ならどうにも首肯し得ない値である。九州電力関係者たちが、日本を滅亡の危機に陥れて、何ら、痛痒を感じないでいるのが、今の状況であると認識されたい。

この記事で、井野先生は、耐用年数を越えた老朽原発の危険度を、脆性遷移温度順にランク付けしているので、以下に記しておく。玄海だけではないのだ。

<<耐用年数を越えた老朽原発危険度ベスト6>>

1位 玄海1号機(98℃)佐賀県九州電力
2位 美浜1号機(81℃)福井県関西電力
3位 美浜2号機(78℃)福井県関西電力
4位 大飯2号機(70℃)福井県関西電力
5位 高浜1号機(54℃)福井県関西電力
6位 敦賀1号機(51℃)福井県日本原子力発電
このような状況を踏まえた上で、なお、原発の停止は何十年もかけて進めるのが現実的だと主張する人たちは、寝ぼけているのだろうと思う。次の大地震(余震)の可能性はもはや否定できない以上、稼働中の原発は、地震が来る前に、速やかに全て停止し、当面、火力でも水力でも、可能な電力を使えば良い。それでも、廃炉、燃料処分に百年はかかるだろう。もはや、中国・韓国に累が及ぶ規模の大原発事故による、日本国家解体・国民離散・外国による日本分断・占領支配と、多少の変革への苦労と、どちらを選ぶかと言う問題だと私は思っている。

なお、「地球にお優しい原発推進派」の論拠のひとつである「地球温暖化説」の理論的破綻に関しては、又日をあらためて書きたい。

追記(6/21)
その後、京都大学玄海原発事故のシミュレーションをしていることをツイッターで知りましたので、リンクしておきます。やはり、九州・西日本の住民にとって、玄海原発は死んでも止めなければならないという、倒錯した状況ですね。九州電力関係者はこの京大レポートを読んで何を思うのでしょう。彼らの思考は理解不能です。民族自滅の道を自ら開く栄光に酔っているのか。もしくは日本社会への復讐なのか。

九電の責任者を出させて、福岡あたりで公開討論でもしたらいいと思います。出席する義務は当然あるでしょう。