アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

ナチズムは死なないことについてのメモ#2(創成期ナチス党におけるヒトラーの演説)

大衆はヒトラーナチス党の演説のどのような個所に拍手喝采したであろうか。

フェルプスによれば、第一にはユダヤ人に対する攻撃。ついで、臆病でかつ腐敗した政府に対する攻撃。つぎは、革命を起こした「犯罪人」、ヤミ商人や暴利行為者、ベルリンからの分離独立主義者、新聞などに対する攻撃。それから外交上では反フランス的演説(しかしヒトラー個人はイギリスの方がドイツの主要な敵だとこの当時は思っていた)。

しかし、彼は演壇の上からただ憎悪と復讐だけを叫んでいたわけではなかった。彼の演説のなかにおける積極的要素としては、大衆のもつ比較的高貴な感情に訴えようとして、次の諸点を強調したことが注目される。

すなわち、ドイツ人の国民的な結集。内外の重圧からのドイツ国民の解放。精神労働と肉体労働の統一と調和、傭兵軍隊を廃して国民軍の設立。ドイツ国民自身のもつ力への信頼。運動の目的達成のためには断固たる手段に訴えるという約束。自由という太陽に対する希望、などの主張で、これらに対しては大衆が例外なしに大喝采をしている。

村瀬興雄「ナチズム ドイツ保守主義の一系譜」より、「IV創成期のナチズム ヒトラーの演説方法」(中公新書154、昭和43年2月初版、昭和63年8月31版)