・・・プルードンは、政治権力の一般法則とも言える傾向を次のように明示する。
『いずこにおいても、またつねに、政府は最初それがいかに民衆的なものであったとしても、結局はもっとも貧困で、もっとも多数の階級に対抗して、知識水準がもっとも高い、いちばん金持ちの側にくみするようになったということ。
さらに政府は、しばらくは自由主義的な態度を維持したのちに、少しづつ例外的、排他的になったということ。
最後に、すべての人々のあいだで自由及び平等を支持するかわりに、政府は、特権へのその自然的傾向のゆえに、それらを破壊するために執拗に努力したということ』
政治権力が、どのようなイデオロギーによって正当化されていようとも、また、いかなる社会階級ないし集団を基盤としていようとも、プルードンがここに指摘した三つの傾向を示すことは、今日では政治学の常識とされているといってよい。しかし、十九世紀が政治権力の創造性や全能性を信じる空想的革命思想の時代であったことを想起すれば、プルードンがいかにすぐれていたかが理解できよう。
プルードンのアナーキズム思想の積極的内容は、今日では明らかに時代遅れであるが、「人民の政府」の観念がいかに非現実的であり、欺瞞的であるかを論証する点では、現在なお不朽の価値を持つと思う。
「世界の名著42:プルードン・バクーニン・クロポトキン」(中央公論社・昭和42年)所収「アナーキズム思想とその現代的意義」猪木正道・勝田吉太郎より