最近では、
ナチズムをドイツ支配勢力の中核とみる立場から、
ヒトラー個人が第三帝国で演じた役割を過大評価しない傾向が強くなっている。
第三帝国の政策の大部分は、
ドイツ支配勢力のエリートたちが計画し実行したものであって、
「戦争犯罪」がもしも問われるとすれば。
それの大部分は支配勢力が引き受けなければならない、
という見方である。
現在の西ドイツの支配勢力(その多くは第三帝国の生き残り)はそのような事態を防ぐ意味からも、
ヒトラーに全責任をおしつけたいと思うであろう。
父アイロスの「近親結婚説」にみるように、
ヒトラーを血族結婚による異常人物にしようとしたり、
彼をユダヤ人の子孫とすることによって、
彼のユダヤ人絶滅政策を説明しようとするのは、
この意図から発している。
・・・・・・
要するに、
いろいろな新資料は、
ヒトラーの環境や性格を異常なものに仕立てることに無理があること、
第三帝国の政策は、
ヒトラー個人の政策ではなくて、
その大部分がドイツ支配勢力の主流の政策であったこと、
などを証明しているのである。
村瀬興雄「ナチズム ドイツ保守主義の一系譜」I若きヒトラーの思想と行動、ヒトラーの正常性と異常性(中公新書154、昭和43年2月初版、昭和63年8月31版)