アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

決闘(改)

ポットのお湯でインスタント珈琲を淹れていたら、舞台上の大時代的俳優のような大げさな身振りで何かを口走る安藤君を思い出し、それが“ゴーガンダンテス”のキャラクターと重なった。少し滑稽で愛すべき伊達男達。やはり死すべき運命だったのか。ゴーガンダンテスのように。あれは渋谷の夜だった。珈琲を飲んだ。H氏と三人。それから一年して彼は倒れた。しかしその死闘を見たものはいない。

 Do not mind my µ-activity
 私の微細な動きに気を取られてはならぬ
 それこそが私の魔術の始まりなのだから

周りにたくさんの人がいる。白昼。人々の衣服は白っぽく、地面が黒い。私は右の掌を上に向けて眺めている。すると、指先から白っぽい煙のようなものが、渦を巻きながら現れた。その尖端が虹色の炎に変わった。そしてその炎の上に、白っぽい分子模型が現れた。炎が分子模型のようなものに変わったのだ。しかし分子模型はその重みのためか、地面に落ちると、淡雪のように解けていった(或いは地面に吸い込まれるように)。

 夏の始まり
 終末の朝日を浴びる君の影が
 俗塵を裂き
 穢土に墜ちる
 
 神 
 自由
 不死
 心地よい湿った風にはためく
 君の三色旗
 
 君の形而上学的甲冑は赤く錆びている
 長く影を曳く槍のアプリオリな綜合判断

私の講義は不吉だと云われる。眩暈頭痛を訴える受講者が後を絶たない。教卓に座る猿のようなものに睨まれたと言う者、机の間を走り回る黒い人影を見たと言う者もある。Speak no evil ! われわれはその場所で不吉である他は無い。何故なら、われわれは四十六億年の封印を解いた最初の人間。われわれはその場所で人類の禁忌に触れる。邪視の猿を恐れること勿れ!

 五月が終わるとき
 吹く風のように甘い褥に
 安らかに横たえるべきわれらの屍はどこにある?

「広島の土を死臭でおおった科学モルモットたちは、新しい建設を祈りながら眠っていることであろう。美しくて平和な豊穣な明るい街のできることを。」

われわれの聖なる闘技場
われわれの不吉な形而上学の生命を賭けた決闘の場所で
君の邪視がわれらを被曝させる

 Do not mind my µ-activity
 わが放射能は恐れるに足らず

                 *「」内引用は太田洋子「屍の街」