アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

ナポレオン

手近なわかり易い目的を知ろうとする態度から離れて、終局の目的がついに不可解なことを認めた時にのみ、われわれは史上人物の生涯に合理性を見るのである。その時はじめて、一般人間的資質と一致しない彼等の行為の原因が啓示されて、偶然とか天才とかいうようなことばが、我々にとって不要なものとなるのである。

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確信もなければ習慣もなく、伝統もなければ名前もなく、そのうえフランス人でさえない人間が、一見したところ、この上なく奇怪に思われる偶然によって、フランスを動揺させているさまざまな党派の間をくぐりながら、そのいずれにも属しないで顕著な地位に立った。

トルストイ戦争と平和 エピローグ 第一編」米川正夫訳 平凡社 1965年11月5日発行