アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

ヘーゲル"哲学史講義” A.プラトンの哲学

プラトンソクラテス派のひとりです。

かれはソクラテスのことばを傾聴した友人たちのなかでももっとも名高く、
世界の中心が意識にあり、
意識こそが世界の本質だというソクラテスの原理を正しくとらえた思想家です。

すなわち、
絶対的なものは思想のうちにあり、実在の一切が思想である、
というのがその原理で、
思想とは悪しき観念論の考えるような、
実在の反対側にあって頭のなかでそれと意識されるような一面的なものではなく、
世界をつらぬく一なるものとしての実在でもあれば思考でもあり、
学問の運動のなかで概念でもあればその実在でもあるもの、
 ー 学問全体を支配する理念なのです。

ソクラテスが原理まで高めた自覚的思考は、
いまだ抽象的にその価値が主張されるにすぎませんが、
プラトンはそれを学問の領域へと拡大していった。

ソクラテスは絶対的に存在する思想を自覚的意思にとっての本質ないし目的としてとらえるにとどまったが、
プラトンはもっと広く、
思想を宇宙の本質ととらえたのです。

原理をおしひろげ、
原理をもとに設計と開発をおこなったのがプラトンです。
ただ、
叙述方法は学問的とはいえませんが。

 ☆

運命の女神がわたしたちにめぐんでくれたもっとも美しい古代のおくりものの一つは、
うたがいもなく、
プラトンの作品です。

しかし、
作品はもともとかれの哲学を体系的にのべたものではなく、
作品からかれの哲学をひきだすのは容易なことではない。

作品そのものの性格もさることながら、
時代によってプラトン哲学のとらえかたがちがうこと、
とくに、
精神的なものを精神的にとらえられぬ近代人のぶざまな手にかかって、
粗野なイメージがもちこまれたり、
哲学ならざるたんなるイメージがプラトン哲学の本質的特徴と見なされたりしたことが、
作品から哲学をとりだすことを困難にしている。

根本原因は哲学に対する無知にあるというほかありません。

 ☆

プラトンは世界史的個人のひとりであり、
その哲学は世界史的存在の一つです。
プラトン哲学は成立の当初からのちのちのすべての時代にまでわたって、
精神の形成と発展に最大級の影響をあたえています。

高度な原理をふくむ基督教も、
プラトンが精神世界への端緒をきりひらいていたればこそ、
理性的なものの体系をつくりあげ、
超感覚的な世界を構築できたのです。

プラトン哲学の特質は、
知的な、
超感覚的な世界への目であり、
精神の領域への意識の高まりであって、
そこでは、
知的なものが思考の支配する超感覚的ないし精神的な形態を獲得し、
こうした形態をもつものとして意識に重要視され、
また意識の内部にまではいりこみ、
意識はこの領域にしっかりと足場をきずくのです。

後にくるキリスト教は、
人間とはなにか、
という原理を天国の至福にもとめる。
いいかえれば、
人間の内面的精神的な本質こそ人間の本当のすがただという独特の一般原理をかかげるのですが、
この原理が一つの精神世界を構築しえたのは、
プラトンプラトン哲学があったればこそなのです。

      (長谷川宏訳 河出書房新社 1994年2月20日再版)

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

プラトニズム・キリスト教ヘーゲルの流れのもっとも忠実で過激な継承者こそが、シュタイナーであることが納得できる。精神と訳されているGeistを霊と読み替えてください。思想と訳されているのはIdeeでしょう(原文を見てはいないのですが)。つまり、イデア