アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

空中戦

この飛行には終わりが無い
重たい私の心臓
ハ四十液冷エンジンの鼓動
私の赤い尾翼のささやかな示威

私は翼から血を流しながら高度一万メートルをめざす
太陽を背にして再び降下する
きみたちの驚く顔
間断無き弾幕も私の生を遮ることはできない

二月の真空
二月の虚空
二月の空には神がいない

アウグスティヌス
あなたの銀色の巨体が二月の真空のなかを飛行する
あなたのマニ教の尻尾が二月の空を暗くする
あなたの灰色の翼が二月の太陽を蝕む

 頽落の都
 東洋のソドムに火と硫黄の雨を降らせよ

二月の虚空
霊と肉の間には真空があり
真空の迷宮であなたは愛を探す

帝都上空
さまよい出る虚無の霊たちを引き連れ
あなたはあなたの背徳に身震いする

そのとき
私のプロペラはあなたの尾翼を切り落とすために回転する
私の主翼はあなたの機体を開腔するために風を切る
あなたは永遠に真空の迷宮でさまようがいいのだ

私の機体
三式戦闘機飛燕が
きりもみしながら大地に吸い込まれていくとき
あなたの原罪が黒煙をあげる
あなたの呪いが熱風を吹きながら私をあざ笑う
あなたの銀色の巨体が炎をあげながら
あなたに呪われた西欧文明を火刑に処す

 ☆

夜のレデオで
あなたは私の闘いを知るだろうか

黒煙を切り裂く一筋の光が
毀れた大地の一隅を射る

わたしの知らない新しい世界で
誇らかに教壇に立つあなたの幻を見た