アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

月と太陽

パウリは考えた
世界の排他律について

ユングは考えた
人生を支配する魔法について

パウリは思った
なぜ世界は俺を受け入れないのだ

ユングは考えた
なぜこの人に私は出会えた?

パウリの頭脳は神の頭脳
ユングの心臓は神の心臓

パウリの心臓には悪魔の鼓動が
ユングの頭脳には堕天使のささやきが

二人は出会った
患者と医者として

陰と陽
パウリには東洋の極性が

男と女
ユングには西洋の極性が

物質と霊の秘密を証す

パウリの病んだ心
ユングの愉快な心

パウリの頭脳に宿る数字の脅迫
ユングの頭脳を彩る古代のオーラ

月が呪い
太陽が祝福する

パウリは思う
俺の心のなかに空席があり
俺はいつまでも彼女を待つ

ユングは思う
私の心は女性であり
私の身体の男性を受容する

太陽系は二人の遊び場
原子の構造は二人の秘密

パウリの代謝系は排他律を流出し
ユングの神経系は共時性を排出し

二人の出会いは
宇宙の時間を狂わせる

その焼けただれた姿態にパウリが眼を背けるとき
その豊穣な裸身にユングは親しむ

魔法の時間が始まった

二人のエーテル体が入れ替わり
二人のアストラル体が融合し
二人の死体が幻視地球のパン種となり

美しい黎明
今朝の太陽風
地上に降り注ぐ
二人の呪詛と祝福である