アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

ある奴隷の話

   ある奴隷の話

宇宙の果てにある
最新型の冷蔵庫の扉を開けて
一本のアイスキャンディーを取り出すと
「もう泣かなくていいよ」
と君は云った

ぼくは泣いてはいなかったのだが
「ありがとう」と云って
アイスキャンディーをなめた

天の川の味がした

サウスキャロライナ州の奥地に棲息するという
ビッグフットの足形を見せながら
君は云った
「こんなになっても生きている奴がいる
だから君も生きろ」

ぼくの足はそこまで成長してはいなかったが
「ありがとう」と云っておいた
翌日
月の裏側から水虫が届いた

学級閉鎖の理由になるという
インフルエンザウイルスの小瓶をぶら下げて
君は云う
「もう心配はいらない
この世の教師はすべてあの世行きさ」

そこで私はおもむろに思い出す

アレクサンドリアの図書館のはす向かいに
小股の切れ上がったいい女が小料理屋を出しており
気の荒いクリスチャンたちが好んで出入りしていた

私はくすねてきたアリストテレスパピルスを尻に敷いて
心地よい夕風
と言う名の酒を静かに口に運びながら
青銅の首枷の下で疼く
いつまでも直らないデキモノを掻いていたのである