アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

包帯デモのためのスケッチ その11

日本変態党は
秘密結社である
したがって
結社成員は
決してそのことを他言してはならない

誰が党員で
誰がそうでないのか
それは誰にもわからない
結社のロッジが
どこにあるのかもわからない

党員はしかし
しばしばファミレスに集っている

ときに党員は
首に包帯を巻いている

首に包帯を巻いた男
首に包帯を巻いた女
首に包帯を巻いた主婦
首に包帯を巻いた老人が
ファミレスの一角を占拠し
語り合っている

彼らにとって
シリアスとナンセンスのシンクレティズムこそ
永遠のテーマである

ある晴れた祝日
彼らは
動物園
ゴリラ舎の前に集う
そのうちの一人は
防護服を着ている

人々は
こどもたちは
いぶかる
あれはなに?
しーっ
目を合わせてはだめよ

そのうち
守衛が何事かと見に来る
お客さんの御迷惑だから
ここを出て行ってくださいませんか
園長の命令です

われわれは
騒動を好まない
あくまでも
理性と感覚に訴える
それが感情と直観への
ハイウエイであることを知っているから

そそくさと立ち去り
そのままの出で立ちで
駅構内へ
「山手線上野駅なう」
伝え知った近在の党員たちは
合流する
もちろん
誰が党員か
誰も知らないので
包帯の一隊に合流すると
彼女もおもむろに包帯を首に巻く

やがて包帯の群はだんだん大きくなり
山手線に乗車
人びとの奇異の視線を集めつつ
新宿で降車し
中央線に乗り換えて
お茶の水に向かう
「神田古書店街なう」

そのようにして群れは膨らみながら
一日は過ぎてゆき
時に茶店でたゆたい
Twitterアカウントの交換などもしながら

日本を変態させる
日本変態の霊薬が
日本列島を潅頂する

あるいは一人の党員が
自分の街に
誰も同志を知らない党員が
包帯を巻いて
ファミレスで読書している
「山田町ココスなう」

包帯を巻いた同志が
やがてやって来る
初めて出会う彼らは
四人五人と増えてゆき
この町で
何をなすべきか
何をしたいか
話し合いが
語り合いが
始まる

包帯会の
予告ツイートも多い
それによって
孤立した党員たちが
ファミレスで
居酒屋で
お好み焼き屋で
ひとつの卓を囲み
一人は一人ではなくなる

中心もない
司令塔もない
リーダーもない
ただ
人と人との出会いがある
それがすべてだ
それがすべての始まりだ

やがて
白い包帯が
日本列島を包む
日本列島は
大きな繭になり
そのなかでどろどろになり
まどろむであろう
巨大な蝶の夢を
夢見るであろう

日本よ
変態せよ
蝶のように
モスラのように

こちらは日本変態党です。