アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

包帯デモのためのスケッチ その8

春の星はなぜあんなに饒舌なのだろう
いつまでもぶつぶつぶつぶつ

だけど遠すぎて
なにを言ってるのかわからない

ただそれほど遠くはない
今ではない昔の方角から
かすかな声が聞こえてくるのだ。

しっぽのない友達
ぼくの体は星で出来ています
漆黒のつやつやした
星で出来ています
何千何万
数え切れない
星で出来ているのです

だからぼくは
ひとりぼっちじゃない
しっぽもあるから
うまく飛べる

しっぽのない友達
ここまで来るのは難儀だね
だからこうして
お話するんだ

ぼくより後にこっちに来た
みみちゃんだったら
ここにはもういない

みみちゃんは
位の高い猫だから
神様の右手に座っているのです。

ぼくは時々思うんだ
何でこっちに来たんだろうって

あんなに苦しいことは
初めてだった

いつも通りの
林の奥で
水たまりの水を飲んだのです

それからだった
頭がおかしくなったのは

おうちに帰って
苦しくてたまらなかった
だから台所で
漂白剤を
飲もうとした

しっぽの神様が
そうしなさいって教えてくれたから

猫の手は
ふたがうまく開けられない
そういう風にはできていない
だから漂白剤の入れ物をかかえて
じっと君をにらんでいたのさ

漂白剤を飲めなかった
苦しさは消えない
ぼくはおうちを飛び出して
ぐるぐるぐるぐる
くるくるくるくる
どこまでもどこまでも
走り続けた

だけど本当は
おうちの裏の狭い空き地で
死んだ兄弟たちと一緒になって
輪になって踊っていただけだった

君は子供の頃
お母さんに教えられたとおり
猫は死に場所を教えないって
信じていたから
僕が消えてからも
探そうとはしなかったんだ

ぼくの毛皮が
地球の上で
固くなって
泥だらけになって

ぼくの骨が
地球の上で
白く凍り付いてる

でもそれはもうぼくじゃない
ぼくの体は
星の体だ

銀河のミルクを飲んで
神様の前で
チャールストンを踊ります

だから
悲しむことはないのです
言いたかったのは
それだけです。

世界中の猫の爪に
火を灯せ
南の孤独な星よ。

屋根の上で
しっぽの生えたともだちだけが
星の声に耳を傾けている。