アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

空想のカメラ

五時に起きた
瞑想をしよう
すべてを忘れて

それでも未だ
夜は明けない
カメラを首に
線量計をポケットに
厚い靴下を履いて
散歩に出る

車の窓ガラスが凍り付いている
霜柱がザクザク云う

女の眉のような
細い月が
白み始めた空に懸かる

私はシャッターを切る
そこには何もない
何もないから
写真を撮らなければ
見えないものを見るには
まず
空想のカメラを向けて
空想の空間に
空想の人々を立たせて

線量計
鳴り始める
ウクライナ製の線量計
毎時0.3マイクロシーベルトを越えると
朝の小鳥のように
警報がさえずり始める

私は
暗い森の中で
慎重に
歩を進める
ストーカーだ

0.48
0.45
0.49

ここにいていいのか

ファインダーに
白い影が現れた
君はだれ

君は
首に
白いスカーフを巻いて
ぼくを見る

ぼくは知っている
君のスカーフのなかを

ぼくは夢中で
シャッターを切る

そして
逃げる

この場所は危険だから

ぼくはもう
ダメかも知れないが。

君は云う
この森に
火を放て

そうしなければ
君の国のこどもたちも
こうなる

そう言って
君は首のスカーフを取る。

君は
君の仲間達を呼び出す
白い包帯を首に巻いた
幾千ものこどもたちが

空想のカメラに写る。

私はシャッターを切る
そこには何もない
何もないから
写真を撮らなければ。