アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

歩く星たち

歩く星たち

夜の帳が降りた
珈琲カップが二つ
天井の高い喫茶店の窓際で
避難について真剣に話をした
戦時中の会話のようだ
未だこの現実を認めることに躊躇している自分の不甲斐なさ
これほど明らかなのに
目に見えない戦争の最中にいる自分たち
線量計の数値だけが明かす現実とは何だ
ぼくたちは未生の死者だった

「哲学とは思想のひきおこした堕落と手を結ぶものです」
「哲学は現実世界の没落とともにはじまるのです」
街宣車の上から
若い悪霊が宣教する
そのあとを
二十八万の殉教者たちが
踊りながら歩くけれど
誰もその姿を見ない
提督ピラトの兵卒だけが
霊と霊の交通整理に没頭する

私は
崩壊
原子は
崩壊

歩く速度で
地球の裏側に墜ちて行く

三博士が
幼子を訪れる

四十六億年前の
東方の星を目指して
横浜の岸辺を
歩き続けるのです