アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

熱に浮かされて詩を書くこと「四つの箱」

    
    四つの箱

世界の四隅には
小さな青い箱が埋まっているのですが
そのことを知っているのは
私だけなのです

西の箱には
小さな草亀の死骸

東の箱には
メダカの死骸

北の箱には
ブリキの救急車

南の箱の中身は
わからない

西の箱の亀は
私が子供のころ飼っていた

漬け物樽のなかは
ミドリ色の苔と
きれいな水で
金魚が二匹
落とし蓋みたいな
丸い木の板を浮かべて
その上に亀を乗せた

亀は或る日いなくなった
三年間歩き続け
向島の長屋から
浅草の観音様に辿り着いて
尊いお経を聴きながら
力尽きたという

東の箱のメダカは
私がバケツの水の中で
泳がせたあげた
それを知らない母は
バケツの水をどぶに流した

母によれば
メダカはどぶの中で生き続けるという

夜の都会の片隅
小さなバーの厨房の下で
ブルースマーチを聴きながら
メダカにジャズは出来ないと
悟ったという

その後メダカは大きくなって
人間に化け
山下洋輔と共演したこともある
エルビン・ジョーンズなみの
なかなかのドラマーだったそうだ

北の箱からは
ブリキの救急車が
いつでも出動できるように
待機している

だから私は
このように安心しているのです

南の箱が開くとき
その時はもう
この地上には誰もいないでしょう