アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

谷山浩子のコンサートに行った。「谷山浩子・放課後の音楽室 〜小原孝先生と〜」

昨日、ツイッターで(ツイッターは時間を無駄にするので、やめなきゃと思うが)、当日券があると知った。
原発事故の私にとってのプラス面は、今日一日を悔いなく生きよと言うことで、ともかく、行けるうちに行こうと思い、常磐線で上野の文化会館まで出かけた。以前だったら、なかなか踏ん切りがつかなかっただろう。私の取り柄は優柔不断だ。
文化会館小ホール、学生時代に、巖本真理弦楽四重奏団を聴きに通ったはずだが、よく思い出せない。私の好きなブラームスクラリネット五重奏曲を聴いたことは覚えている。シューベルトの死と乙女も聞いただろうか。ベートーベンも聴いただろうか。若い頃は時間を浪費して、何も記録が無く、はっきりしない。しかし、谷山浩子を好きになったのも、大学に上がってからだったはずだ。ボート部の山田に教えてもらったのではないか。ちなみに、山田の奥方は、谷山ファンだそうだ。ファンシーなお方だ。結婚式で会ったきりだが。そうでなければ、何がきっかけだったのだろう。
小ホールロビーは、猫の森で迷ってしまったような、いい歳の大人が右往左往していて、尋常ではない。心配な感じの人が多い。何よりも、この私が一番心配だ。


文化会館は、何十年も中に入らないうちに、随分きれいになってしまった。当日券だったが、一番前左の席が取れた。ここは、谷山さんがピアノの小原さんと目配せしてタイミングを取ったりする表情も分かるし、実は最高の席だった。


クラシックとジャズ以外で、コンサート(ライブか)に来るのは初めてだったが、谷山さんも、クラシックのホールで演奏会を開くのは、珍しいと云っていた。開演、小原さんのピアノの最初の一音を聴いたとき、やはり来てよかったと思った。ほんとうに美しい。当日のメニューは以下の通り。10.逢えてよかったね(小原さんによる復興支援ソング)で前半終了。

小原さんは、由紀さおり姉妹の童謡コンサートの伴奏を九年したそうだ。確か、有名なクラシック・ギター奏者のご子息だが(谷山さんにツイッターで確認!)、地道なキャリアを積んだ人なのだ。マル・ウォルドロンだって、ビリー・ホリデイの伴奏者だったのだ。ピアニストが優れた歌手から学ぶことは多いに違いない。小原さんは私は今回はじめて知ったが、とても好きになった。小原さん自身が谷山ファンなのだ。バッハのメヌエット(「テルーと猫とベートーベン・偉大なる作曲家」のハープシコードは小原さんの演奏)は、ワンコーラスで終わったが、もっと聴いていたかったひとは多かっただろう。

後半、「まっくら森の歌」あたりから、目をつぶって聴く。圧巻は「テルーの唄」。泣けて困った。しかし、照明が落とされた後半から、わたしは妙な感じにおそわれたように思う。何か、自分が、子守歌を歌ってもらっているような気分なのだ。これはいったい何なのだろう。きっと、卑弥呼とか、その後継者の女王(名前は失念)とかも、こんな力を持っていたのかも知れない。いい大人をこどもに返してしまう魔力を。ここに集った善男善女は、皆、いい歳をしてマザコンなのだろう。普段は隠蔽している自らの孤独なマザコン魂が、浩子女王の魔法で解放されるのだ。開演前は、ホールで迷子になったようにうろうろしていた彼らであったが、閉演後は、ひとしきり泣いた後の子供のようなどこかすっきりした表情で、帰路につくのであった(と、ひとごとのように書いてみる)。

谷山浩子・放課後の音楽室 〜小原孝先生と〜」
【出演】谷山浩子(Vo.)、小原 孝(Pf.)
【日時】2011年6月16日(木)
     開場18:30/開演19:00
【会場】東京文化会館
【料金】5,000円(全席指定、税込)