アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

欲望(改稿#1)

S博士によれば 特定の欲望が特定の器官に関わるという
なるほど 考えてみれば 脳の欲望 眼の欲望 脚の欲望もある
白日下の意識に意識化できないだけなのだ

愛の欲望は心臓付近の器官に関係しているに違いない
(高次の身体における)

音楽は耳の欲望が生み出したものか?

  *
 
プロメテウスの兄弟
巨人アトラスが大地を負うようにして
一つ一つの小さな波の山をその背に担う
自動反転砂時計の幻

時間の神の通り道に落とし穴を掘って待っていると言う老人
不老不死の妙手はこれしか無いと信じている
菫色の時間
そして老人の罠に落ちる
(わたしたち)

それ以来時間が進んだという話を聞かなくなったでしょう? 

この世界には今だけがある
不老不死の世界が広がっていく
古い染みのように

  *

わたしは生まれた
そして胃カメラを飲んだ
純粋に生理的な涙を流す
わたしは産卵する
自己の内面の月光の下で

わたしは産卵するウミガメだ
自己の内面に触れる
異物に反応する
感情の無い涙を流しながら
産卵する巡礼者
(或いは自己の隠された外側を巡る)

  *

未知の自己の外壁はピンク色にヌメヌメと蠢動し
絶えず濡れているのだった
恩寵によって幾何学的反転を遂げたわたしは
あのような淫靡極まり無い外貌の怪物なのであった
(薄明に屹立する)