アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

ヘーゲル「哲學史講義 中巻」B.アリストテレスの哲学

プラトンはよく読まれるが、
近年はアリストテレスはほとんど知られるところなく、
最悪の偏見がはびこっている。
かれの純理論的な作品や論理学の作品を知る人はほとんどない。
博物学の著作だけは近年しだいに正当な価値をみとめられるようになったが、
その哲学理論は正しい評価をうけていません。

アリストテレスの哲学とプラトンの哲学はまっこうから対立するもので、
後者が観念論なら、
前者は実在論
しかももっともありふれた実在論である、
といった(俗っぽい)考えがあまねく流布している。

プラトンは理念や理想を原理とし、
内的理念を自発的な創造者であるとしたが、
アリストテレスは、
魂は白紙(タブララサ)で、
すべての内容をまったく受動的に外界からうけとると考えるような経験主義者、
最悪のロック主義者だというわけです。

実際は、
アリストテレスの思索の深さはプラトンをしのぐほどで、
というのも、
彼は観念論的な思索をつきつめた人だからで、
経験的な視野をどんなに広げても、
根は観念論者だったのです。

長谷川宏訳)