アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

「聖なる人間の方が悪い天使よりもその數が多くなければならないか否か」聖アンセルムス

天使のうちには堕落したものもあるが、
それらが堕落するよりも前には、
天使の定數は、
われわれが言つたやうに完全であつたとすれば、
人間が造られたのもただ堕落した天使の定數を囘復するためにほかならなかつたのであらう、
そして人間の數が天使の數よりも多くはないことも確かであらう。

けれども、
もしすべての天使を合せても、
〔藭が豫定したまうた完全な〕その定數に達しなかつたとすれば、
それは人間で補わなければならないであらう。
そして墜ちたものもあるし、
初めから缺けてゐたものもあるのだから、
逐われた天使の數よりも人間の方が多數選ばれることになるであらう。

さういふわけで、
人間が造られたのは、
ただ減損した天使の定數を囘復するためばかりではなく、
更に未だ成就しなかつた定數を完成するためでもあつたと、
われわれは言はなければなるまい。

 聖アンセルムス「クール・デウス・ホモ」第一巻第十八章
(長沢信寿訳、岩波文庫、1948年第一刷発行、2002年第四刷発行)