アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

音響論

缶コーヒーを飲もうとして噎せて、
咳をしたら、
その響きが膝の上のサキソフォンに共鳴した。

   ☆

身体にも、
共鳴する楽器のような働きがあるのだが、
われわれはそのことに気づいていない。

世界中の身体が、
今、
このとき、
共鳴している。
しかし、
われわれはそのことに気づかないのです。

離れていても、
言葉が届かなくても、
われわれの身体は、
共鳴し合う楽器なのです。

その響きに耳を傾ける。

不安や動揺も、
その音楽の一パートなのです。

目には見えない。
希望は目には見えない。

希望は、
あなたの身体から響き始めます。

世界が沈む。
だから夕焼けは美しい。

美しいものと悲しいものの間に、
世界は沈んでゆくのです。

   ☆☆

つまりあなたは、
こう言いたいのですね。
人間とは神々の楽器であると?

私の答えは、
吃音者の鼻歌、
盲の絵描き歌、
跛行するマラソン・ランナーの息遣い、
総理大臣の椅子に凭れ掛かる悪霊、
傷痍軍人の遺した箱根細工、
そして、
鉄の処女貞操帯。