今では、使用済み核燃料における長寿命の核種が燃え尽きるまで百万年以上かかることが、一般人にも常識化しつつある。誰が責任を持つのか。創世記の時代、蛇に騙されて知恵の木の実を食べたアダムとイブの原罪(筆者プロフィールの図を参照)が現代のわれわれにまで作用しているとして、二十一世紀のわれわれは、濃縮された放射性核物質という新たな原罪を人類に背負い込ませることになってしまった。われわれは二十一世紀のアダムとイブだ。もう楽園には帰れないのだ。
以前書いたように、濃縮されたウラン235やプルトニウム239は、中性子を発生する自己増殖的な核分裂反応によって、結果的に膨大な熱エネルギーと放射線を発生し続ける一方、分裂後の生成物も核変換・核崩壊を続け、膨大な熱と放射線を吐き続ける。結論を急いで、先に以下の図を見てしまおう。
図1 軽水炉(日本の実用原子炉)における使用済み核燃料の崩壊熱の時間的推移。出力1000MW(メガワット)の原子炉を一月運転した場合。ちなみに、福島第一原発一基分の出力は、4700MW。出典は、Bernard. L. Cohen, Rev. Mod. Phys. 49, 1–20 (1977).
上の図1の結果によれば、使用済み核燃料からの崩壊熱発生量が十分の一に下がるまでに十年は必要である。従って、来年の三月になっても、まだ発熱量は反応停止後の今年三月当時と九割方変わらないことになる。現在の高濃度放射能汚染が進行中の建屋近傍で、本来の冷却システムの回復が不可能である以上、汚染された冷却水・水蒸気を環境に放出・漏洩しつつも、冷却作業は続けざるを得ない。プールに貯蔵された核燃料においても同様の結論になる。関係する技術者、作業者の命を削りつつ、膨大な国費をむさぼりつつ、地下水・海水を汚染しつつ、冷却作業は政権交代も現職議員の引退も関わりなく、し続ける他にない。
一方、311の原子炉緊急停止(スクラム)直後に関しては、この図とは多少事情が異なり、非常に寿命の短い核種の崩壊が集中して起こる。α(アルファ)崩壊する核種においては、半減期(寿命)の短い核種ほど、放出するエネルギーも大きい。従って、反応停止初期に放出される核エネルギーは膨大なため、この時点で冷却システムに故障が起きれば、燃料棒の熔解(メルトダウン)も避けられない。現状では、この急激な初期発熱の段階は終わっている。
政府も、ようやく今になって、事故処理が民主党政権の寿命などをはるかに超えた遠大な計画にならざるを得ないことを国民に公表し始めた。
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事故処理に数十年=首相が見通し―福島第1原発
2011年7月9日14時6分[時事通信社]
菅直人首相は9日、民主党本部で開かれた党全国幹事長会議であいさつし、東京電力福島第1原発事故に関し、「多くの方が避難を余儀なくされており、処理には3年、5年、10年、最終的には数十年単位の時間がかかる見通しだ」と明らかにした。その上で、「従来考えていたリスクと原子力によるメリットの考え方を根本から見直さざるを得ない」と述べ、原発も含めたエネルギー政策の抜本的な見直しに意欲を示した。
発言は、放射能に汚染された土壌の除染、避難住民の帰宅と生活の安定、溶融した核燃料を取り出しての原子炉の廃炉などを念頭に置いたもので、首相が事故収束後の中長期的な処理の見通しに言及したのは初めて。政府の取り組みが「数十年」という長期にわたることが明確になり、事故の深刻さが改めて裏付けられた。
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広瀬隆と明石 昇二郎のビデオメッセージにも、この現状を”打開する”ことは無理であるという認識が示されている。もはや、蓄積された膨大な量の濃縮された放射性核物質は、物質文明の原罪として、今後、日本人が子々孫々にわたって背負い続けなければならない重い荷物なのだ。
このような認識の上でなお、原発推進を唱える政治家、経団連幹部、官僚、新聞・テレビ関係者等々がいるとすれば、それらは原発利権という黄金色の「うんち」に群がるハエ・蛆の類だ。人間扱いすることは出来ない。もはや人の皮を被った蠅だと思った方が正しい。