アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

アトミズム(原子主義)の克服ー佐藤優「日本国家の神髄」を読み始める

副題に、ー禁書「国体の本義」を読み解くーとある。
今日のメモ。
  佐藤によれば「国体の本義」は優れた思想書であり、西欧的な近代精神・啓蒙思想の限界に言及し、ニュートン的世界観の批判を含む。これを「国体の本義」に関する「広辞苑」のあたかもGHQに迎合したかのような皮相かつ否定的な記述と比較するとき、日本の戦後思想界を席巻した岩波文化の本質について、再考を促される。
  ニュートン力学の含意はカント哲学の成立を促したが、二十世紀第二・四半期の初めに出現した「量子力学」の含意を体現する哲学は、まだ出現していない。たとえば、量子力学存在論の「アトム(単位)」である波動関数は、数学的にはヒルベルト空間を前提にしている。そこでは、ひとつの波動関数が、既に、ひとつの完全系としての基底関数系の存在を前提としてはじめて成立する。基底関数系は無数に存在するが、そのひとつひとつが完全なる全体である。すなわち、量子力学においては、既に、個がひとつの全体を前提し、内包している。量子力学の出現によって、合理主義による「個的存在と全体存在の関係の顕在化」に、人類は初めて成功したと言って良い。ここではニュートン力学的粒子としての独立した個別的アトムは跡形もない。”個人主義的”西欧文明をアトミズムと関連づけて考える佐藤の思考に沿って論じれば、量子力学が開いた二十世紀における第二科学革命は、既に旧来の近代精神を抜き去った地点に至ったが、初めに述べたように、その思想的・哲学的含意が普及するのはむしろこれからだ。個としてのアトミズム=近代物理学の枠組みが、個=全体の現代物理的世界像に壊変した現在の観点からこそむしろ「国体の本義」を読み直す現代的な意義が見えてくる。

日本国家の神髄

日本国家の神髄