アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

再臨界の可能性に関する熱力学的考察は可能で、事態はその意味でも沈静化しつつあるかも知れない

昨日の、自然原子炉的な再臨界の可能性の検討の続き。
与えられた圧力、温度、組成(元素の量と構成)の中で、どのような化合物、元素単体、相(液体、気体、固体)が実現するかは、熱力学的に予測出来る。その際、JANAFの熱化学データというデータベースを利用して、熱力学的平衡(ギブス自由エネルギーが極小)における物質の組成を(スーパー)コンピューターを使って計算する。ウランの酸化物には、核燃料として使われるUO2(二酸化ウラン)だけではなく、U3O8もあり、一気圧では、後者は800℃以上で安定らしい。実際の原子炉内の圧力と温度、ある程度の物質(元素)の組成比が与えられれば、すぐにでも、専門家であれば計算が出来る。このような計算のコード(プログラム)は広く流通しているので。私が一番怖れるのは、高温からある程度温度が下がってUO2が偏析(二酸化ウランが析出)する可能性で、溶け出した燃料棒が下方の水の中に落ちて温度が落ちた際に、そのような条件が現出しないかどうかという点だが、事故が起きて既に一週間以上経っても、そのような痕跡が無いようなので、その恐れは低いかも知れない。
逆に言えば、物質は、普通、純粋化する(エントロピーを低下させる)方が難しく、不純物が結晶内に入ったり、結晶粒間にも不純物が析出したりする方が普通なので、昨日書いた、燃料棒オリジナルのウラン濃度の再現による自然原子炉的な再臨界の可能性は、低いと見て良いかも知れない。もちろん、即断は出来ないし、3月19日に書いたように、速度論的な観点からは、原理的な予測不可能性の問題が残ることは確かではある。ただ、時間が経つにつれて、どうもそのような、最悪(再臨界は起きれば、作業員も避難するほかになく、もはや人間には手がつけられない)の実現可能性は下がると考えて良いのではないかということである(この考え方は、たとえば、100個のサイコロを振り続けても、合計100が出る確率は低いので、時間が経つにつれて、これはないのではないかと考え始めるということと同じである)。その場合、もちろん、人間の側の、冷却の働きかけが絶えず進んでいることが前提であるが。したがって、今は、溶け出したウラン化合物に関しては、既にある程度の安定的な組成比になっていて、問題が沈静化しつつあるという可能性について、考えているのである。その場合、今後の問題は、原子炉の冷却がうまくいかず、圧力が上がって、再び弁を開いて放射能を大気中に放出する可能性と、それすら出来ない状態において、炉の圧力が上昇し続け、格納容器が破損する恐れである。しかし、今朝起きてみて、ニュースをチェックしても、そのような悪い兆候は起きていないらしい。現場の方々の決死の努力が実を結んでいるのか。
外は雨だった。雨には放射性同位元素を含む微粒子が取り込まれている可能性も高いので、被曝の可能性が上がる今日は外出せず、家にこもることにする。懸案の締め切りの仕事を始めなければ。愚かなことに、私にはその方が憂鬱かも知れない。