マルキオンは死なない
夢魔
君の脳髄をストローで吸いたい
そのときぼくの頭上に広がる君の歌声
それは青空を満たすほどに
失われた天国である物の裏側
影こそが美しい
もどかしげな愛の手つき
そしてぼくの掌を覆う十字架
それは神秘家の徴である
マルキオンは死なない
彼らが死人の中からよみがえるときには
めとったり
とついだりすることはない
彼らは天にいる御使いのようなものである
神は死んだ者の神ではなく
生きている者の神である
肉欲を司る女神
その長い裳裾を引き摺る音
「最も美しい女性へ」
夢魔は黄金の林檎を投げる
背教の環を逃げていく影
マルキオンは死なない
ぼくの脳髄に刺されたストローを吸う
その人