巨人はロリータを肩に乗せて歩き始めました。
「白鳥の乙女よ。
決してその羽衣を無くさないでください。
あなたたちに風が必要なように、
わたしには眠りが必要だ。」
巨人は深い眠りの池に向かって歩いて行きました。
青い妖精たちの棲む池です。
「いいえ。
わたしは白鳥の乙女ではありません。
これは羽衣ではありませんし、
わたしには風も必要ないのです。」
巨人は歩みを止めました。
とても悲しくなったからです。
「あなたはなぜ噓を言うのですか。
わたしの心臓の血を半分さしあげますから、
ほんとうのことを言ってください。」
巨人の心臓に傷口があらわれ、
血が流れはじめました。
それはロリータの美しい白い服を真っ赤に染めました。
「あなたはわたしの服をきれいに染めてくれた!」
ロリータはよろこびました。
「あなたは白鳥の乙女ですね?」
「いいえ。
わたしは村の娘です。」
巨人の岩のような顔に悲しみの陰がさしました。
「あなたはなぜ噓をいうのですか?
それではわたしの眼を差し上げましょう。」
巨人は片目をえぐり出すと、
ロリータの前にそっと置きました。
「まあ、
すてきだわ。
なんてきれいな宝石。」
巨人の目の前は暗く、
もう息をするのも億劫です。
しかし深い眠りの池はまだまだ遠いのです。
巨人族はあまりにも歳をとりすぎていたのです。
深い眠りの池に沈んで千年眠ること。
それだけがかれらの種族を救う道でした。
しかし、
巨人族の最後のひとりももはや池まで歩くことができなくなってしまいました。
青い妖精たちは、
いつまで待っても巨人がやってこないことが心配になり、
美しい青い翅を震わせながら巨人のくるはずの道を翔んでいきました。
やがて青い妖精たちは、
岩になった巨人と、
その上にとまっている一羽の夜鷹の姿を見つけました。
その夜鷹は姿は夜鷹なのに、
羽が血のように赤いのです。
すべてを知った青い妖精たちは、
赤い夜鷹を殺し、
池に帰って行きました。
そして罪を負った青い妖精たちは神様の怒りに触れ、
美しい糸トンボに姿を変えられてしまったということです。