アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

科学の没落の自覚

管総理が3月27日に受けたという講義で、原子力専門家が示した最悪のシナリオは、溶け出したウラン燃料が炉底に富士山型に沈殿し、そこでウラン235が規定濃度に達して再臨界を引き起こし、制御不能に陥り、放射能汚染が拡大する、と言うものだったそうだ(フライデー4/1号)。以下の読売ネットニュースによると、日本の原子力工学第一世代の代表者たちが、今回の福島原発事故に対する責任を認めて総懺悔した。そのなかで、彼らは、炉底溶融の可能性を公言した。東大に集約・象徴される日本の科学技術の権威が崩壊した歴史的瞬間である。日本人の科学・技術に対する思想が大きく転換する時を今まさに迎えたのだ。この科学至上主義の没落の自覚は人類史的出来事であって、文字通り津波のように福島から逆に世界に波及して行かざるを得ない。科学が正しさの尺度であるような時代はこれで確実に終わる。

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原発事故、国内の経験総動員を…専門家らが提言

福島原発
 福島第一原子力発電所の事故を受け、日本の原子力研究を担ってきた専門家が1日、「状況はかなり深刻で、広範な放射能汚染の可能性を排除できない。国内の知識・経験を総動員する必要がある」として、原子力災害対策特別措置法に基づいて、国と自治体、産業界、研究機関が一体となって緊急事態に対処することを求める提言を発表した。

 田中俊一・元日本原子力学会長をはじめ、松浦祥次郎・元原子力安全委員長、石野栞
しおり・東京大名誉教授ら16人。

 同原発1〜3号機について田中氏らは「燃料の一部が溶けて、原子炉圧力容器下部にたまっている。現在の応急的な冷却では、圧力容器の壁を熱で溶かし、突き破ってしまう」と警告。また、3基の原子炉内に残る燃料は、チェルノブイリ原発事故をはるかに上回る放射能があり、それをすべて封じ込める必要があると指摘した。

 一方、松浦氏は「原子力工学を最初に専攻した世代として、利益が大きいと思って、原子力利用を推進してきた。(今回のような事故について)考えを突き詰め、問題解決の方法を考えなかった」と陳謝した。

(2011年4月2日01時42分 読売新聞)

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事故の現状に関する具体的な情報公開がますます乏しくなる現状では、部外者が正確な判断を下すことは、難しい。指摘されているように、沈殿した燃料の発熱速度と東電の努力している冷却速度の競争でどちらが勝つかと言う問題である。

材料学的には、ウランと被覆管の成分(報道によればジルコニウム)の二元系の相図というものがあると考えやすいので、週明けに職場に出たら、調べて見たいが、燃料棒上部で溶け出したウランと被覆管成分が固溶体として炉底に沈殿している可能性が高く、その場合、当然ウラン濃度は下がるので、再臨界は生じないだろう。又、核分裂反応には、低速の中性子線(熱中性子線とも呼ばれる)が必要だが、核分裂反応自体によって生成する中性子線は速すぎてその効果がない。そこで、核分裂を維持するためにわざわざ水によって中性子線を減速させる手段を用いる。再臨界はその意味でも、よほどうまい具合に沈殿物が炉底に分布しない限り、難しく、確率は低い。仮に万一再臨界がある沈殿物部分で生じても、それを維持する中性子線が必要で、反応は消えてしまうのではないかと考える。
水蒸気爆発が炉内で起こる可能性だが、もしそれが起こるべきなら、既に起きていておかしくない。それが起きない理由が現在あるのだろう。まず考えられることは、水蒸気爆発に必要な酸素が炉内では足りないためではないか。炉内圧力が一気圧よりも十分高ければ、内部に水素は十分あっても、酸素が外部から進入しないため、水素爆発の条件が整わないことになる。この点は、当然、東電は把握しているはずだと思う。
残された可能性として、沈殿した燃料の自然崩壊による熱で炉底が溶け出す可能性であるが、この場合、指摘されているように水素爆発を伴えば最悪で、放射能汚染範囲は非常に大きくなる可能性がある。アメリカもこれを怖れているのだと思うし、報道はされないにせよ、この事態を防ぐことを最優先として作業が進められているのではないかと思う。
水素爆発の可能性が完全に除去できるところまで行けばベターだが、それには少なくとも数ヶ月はかかるのだろう。それまで、われわれは、作業者がまともな待遇を受けられること、被曝を最小限に食い止める努力を東電と監督すべき国が行うことを望むしかない。

フライデー4/15号は、今までの被曝事故で亡くなった被害者の方々(東電原発の下請け作業員と、東海村の臨界事故で巻き込まれた住民)の心身の苦しみと、不当な裁判の結果を詳しく報じている。これが日本の現実かと思うと、いても立ってもいられない気持ちになるが、東電が最大のスポンサーのひとつであるテレビでは絶対に報道しないだろう。

余震は相変わらず弱まらない。しかし、回数はずいぶん減ったように思う。