アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

猫の言葉

どこかの階段を降りてくる。よくあるような下が透けて見える黒っぽいスチール製の階段。右隣で、一緒に階段を降りる年下の友人が、「荷物をお持ちしましょうか?」と何度も聞いてくるが、断る。私は山歩きから帰ってきたところだった。彼の言葉でリュックの重さに気づく。しかし苦にするほどのものでもなかった。

階段はどこかのビルの中だったらしい。階段から見下ろすフロアには雑然とパンフレットのようなものが置いてある様子で、ひとの気配も多い。パンフレットは、高名な學者の講演(か何か)についてのものだった。フラクタルとか自己組織化とかの非線型科学に関する主題で、夢のなかではその和名が頭に浮かんだのだが、今は思い出せない。友人とその主題に関して二言三言言葉を交わしたはずだ。私はそのまま大学の寮の建物の中に入るところだった。山から降りてきたばかりにしては身体的な爽快感が感じられないと思った。寮の屋上(最上階?)の危うげな渡り廊下、というよりも、工事現場の足場のようなものを伝って行く。古い寮である。寮の最上階(屋上?)から見下ろす形で、隣のビルの屋上とそのビルの右側にあるビルの室内が並んで見える。

屋上には軽自動車がたくさん並べてある。そこで何かが行われていた、たしか音楽の演奏だったようだが、そのあたりの記憶が怪しくなる。その右隣の室内の印象の強さに打ち消されてしまったようだ。物理的には不可能なはずだが、寮の屋上から、軽自動車のある屋上に並んで右隣のビルの室内を上から俯瞰できた。大きな作業机(二つに分かれていたようだ)が、三角形に近い部屋の大部分を占めていて、台所らしい。その机も部屋の形に沿っている。若い夫婦が熱心に何かの料理を準備している。部屋の左側が調理用のスペースになっている。部屋の右側周縁部には道具類が整理しておいてある。ぼくにはこのように整頓された台所は無理だと思いながら眺めている。

目が覚めると猫太郎が顔の右側にいた。相変わらず体調はすぐれないままで、しばらく起き上がれずにいた。おそらく猫太郎の鳴き声がきっかけの夢だったのだ。猫太郎はぼくの重荷を代わりに背負ってくれるつもりだったらしい。