アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

鯨(八月二十日の改稿)

目の前の人間が 警官に 連れ去られて行く
現場を 見た 発言の内容に 
引っかかるものが あったのである
警官が それを 指摘したとき 
彼は しまった! という顔をしたが 
すぐに 警官について 去って行った
しかし それが 「凍った鯨の夢」と 
どう繋がっていたのか?
 
「凍った鯨の夢」の 同行者が
彼だったのだろうか
そのとき 私には 話し相手が いたのだが
その姿は なかった 存在だけが あった
それが 存在という ものなのだ 
ということを 夢が 教えたのだろうか
つまり 私は存在している! と言うことだ
それは 私が
一番知りたかったことだった(*)
 
  (*)私が私と言えば 
  それは 私のことであるが 
  この夢のなかの私は 私ではないことに
  注意を喚起しておこう

   ☆
 
私たちは 大勢で どこかに 向かっている 
それは 徒歩の 遠足だった
 
昏い 街道沿いには 巨きな 三角形の
木造建築 九龍城のような 風格をもつ 
廃墟寸前の 建物がある

 その建物は 双子で もう一軒が
左に密接 連結していた
 〈シャム双生児のように〉 

巨大建築の 背後には 
それよりも 背の高い重機が
曖昧な顔を 覗かせていて それが 
今にも 破壊される 運命を 指差している
 
私たちの 遠足は すでに 
目的地に着いた 後だったらしい 
それでも 私と彼=存在は
北極のように 凍りついた 暗い道を
たどっていた 氷のなかに 封じ込められた
巨きな 魚体のようなもの 
 〈絶妙に 身体を くねらせている〉
を左手に 通り過ぎたとき 私は 
彼=存在に これは鯨だ と言ったようだ
 
夜が 迫っていた 私たちは 凍った世界を 
山の方角に 向かって 歩き続けていた
このままでは 遭難 するかも知れない 
そう思ったところで 意識の 接続が
途切れた
 
宿泊地に たどり着いた 私たちは
男から もう 閉めるところでした
あなたがたが 最後です 
という言葉を 聞いた(*)
 
 (*)モラルを外在化した人間たち
  の出現に呼応して 
  社会がモラルである世界が
  立法化された夜 外側が内側を決定する
  われわれは既に 存在=共謀する罪
  の一群 に包囲されていた 
  〈あらゆる内部は 唯一の 
  外部のためにある〉
  この位相幾何学を 理解 しないものは
  生き残ることが できない
  〈私的事態は 立法府
  先取りしていた〉

病者たちは 内面を 罪で彩る
われわれの罪が 狂おしく 解凍 し始める