アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

教會(八月の改稿)

夜 孤独者 戦場の犬たち
帰宅した傭兵を 待つものは 雨の降り続ける テレビが一台

われわれは どこにいても 
だれと一緒でも 孤独だから
あらゆる空間に テレビが現れる
われわれの広場には 巨大なテレビがある

われわれは 生まれつき 傷ついているのだ 
傷ついた 犬のように
自分の傷を どうしてよいか わからないでいるのだ
テレビを見れば 何かわかるかも知れない
毎日 毎晩 テレビを見続ける
風呂のなかでも テレビを見続ける 
排泄中も 分娩室でも
なぜなら テレビが唯一の教会だから
敬虔なわれわれは 寝室にも テレビを置かなければならない
神聖な性の営みは テレビの下で 行わなければならない
なにごとであれ テレビに見られていなければ 意味が無い

われわれの 生の意味を テレビが発生する
われわれの 無意味な 生の意味を

テレビから 遮断されることは 生の終わりだ 人間をやめることだ
テレビに背を向け 楽園=解放を夢見る者たち
かれらは あきらかな 異端である
審問官たちは まず 彼/彼女の衣服を剥ぎ取り
悪魔の刻印を その裸体に探すだろう 背教者たちは 火炙り・穴吊し 
人間の想像力が 及び得る限りの あらゆる拷問を 覚悟しなければならない

〈逃げ道は無いのかって?〉
〈そうだな
  これはフィクションかも知れないが
   昔挑戦した女子高生たちがいたらしい
    いや完全にフィクションだがそれがどうしたというのだ?〉
伊豆高原の廃墟モーテルの話だろ?〉
〈そこには壊れたテレビと謎のビデオが置いてあって・・・〉

あらゆる家庭
あらゆる広場の テレビというテレビから 這い出してくる
われらの貞子が 解放者であり贖罪者である 貞子が
あらゆる教会を炎上させる 真の解放者である 貞子が

地震が解いてしまった 古井戸の封印  われわれこそが貞子
髪振り乱し 泥まみれに這いつくばり 進む
われわれの呪いは 千年経っても 消えることがない