アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

ざらすとろのピアノ(八月の改稿)

    1

諸侯
貴族
農奴
賤農

階級闘争

目に見える世界史が
エンゲルスを鼓舞したとき
われらの時代はまだ明るかった

指導者
オルグ・ドシャ
灼熱せる王座で炙られ
その条件でのみ助命を約束された
おのれの部下によって
生きながら食われたという

ドイツ農民戦争

それでも世界はまだ明るかった

人と人が剣をもて争い
血が流れ
首は刎ねられ

農民たちは信じる
将軍トルッホゼスの休戦提案

将軍は
易々と
何度でも
農民軍との協定を破り

指導者
イエックライン・ロールバッハ
は捕らわれ

トルッホゼスは
彼を棒杭にくくりつけ
そのぐるりにたきぎを積みかさね
遠火にかけて
生きながら炙らせ
部下の騎士達と
酒杯を重ねつつ
この見世物を楽しんだという

それでも世界はまだ明るかった

    2

キリストを捕縛するローマ帝国兵士
その兜の青銅の輝きが
二十一世紀
東京
霞ヶ関
梅雨の
甘い顔をした
都市の
歩道
その暗がりに
一筋の光線となって

ざらすとろのピアノの上に落ちた

 もはや世界はこれ以上暗くはならない

滅亡すべき民族に
ざらすとろのピアノの音は聴こえない

 われらのバール神
 ざらすとろの肉塊を
 捧げよ
 
雨の歩道
ざらすとろのピアノの音は
権力の消音器のなかに消えて行く

ざらすとろの鍵盤が
たとえ世界の中心にまで降りて行く豊かな音を響かせたとしても

その鋼鉄の響きは
権力者の宮殿には届かない

    3

だが
私は知っているのだ

そのとき
見えない光が
世界を切り裂いたことを

世界よ
滅びよ

世界よ
滅びよ

世界よ
滅びよ

滅亡すべき民族よ
奴隷どもよ

    4

ざらすとろのピアノが
青い嵐を裂いて
われらを震え上がらせるとき

地は闇に覆われる

生暖かい雨が
血のような匂いを放ちながら
君たちの上に
十万の
ヒツジの群れの上に
厳かに降り注ぐのだ