アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

決闘(七月の改稿)

ポットのお湯でインスタント珈琲を淹れていた朝、時代がかった大袈裟な身振りで愛について語る安藤君を思い出し、それがなぜか「ゴーガンダンテス」のキャラクターに重なった。少し滑稽で愛すべき伊達男たち。やはり死すべき運命だったのか。ゴーガンダンテスのように。あれは渋谷の夜だった。珈琲を飲んだ。H氏と三人。それから一年して彼は倒れた。しかしその死闘を見たものはいない。

  Do not mind my µ-activity
  私の微細な動きに気を取られてはならない
  それこそが私の魔術の始まりなのだから

周囲には人、人、人。白昼である。人々の衣服は蒼褪めており、地面が黒い。私は右の掌を上に向けて眺めている。すると指先から白っぽい煙のようなものが渦を巻きながら現れ、その突端が虹色の炎に変わった。そしてその炎の上に純白に輝く分子模型が現れた。炎が分子模型のようなものに変わったのだ。しかし分子模型はその重みのためか地面に落ちると、淡雪のように解けていった(或いは地面に吸い込まれるように)。

夏の始まり
終末の朝日を浴びる君の影が長く伸びている 
神 
自由
不死
心地よい湿った風にはためく
君の三色旗
君の形而上学的甲冑は赤く錆びている
長く影を曳く槍のアプリオリな綜合判断

  *

私の講義は不吉だと云われる。頭痛眩暈を訴える受講者が後を絶たない。教卓に座る猿のようなものに睨まれたと言う者、机の間を走り回る黒い人影を見たと言う者もある。Speak no evil! われわれはその場所で不吉である他は無い。何故ならわれわれは四十六億年の封印を解いた最初の人間。われわれはその場所で人類の禁忌に触れる。邪視の猿を恐れること勿れ!

  五月が終わるとき吹く風のように甘い褥に
  安らかに横たえるべき私の屍はどこにある?

「広島の土を死臭でおおった科学モルモットたちは、新しい建設を祈りながら眠っていることであろう。美しくて平和な豊穣な明るい街のできることを。」

  *

われらの聖なる闘技場
われらの不吉な形而上学の生命を賭けた決闘の場所で
君の邪視が私を被曝させる

  Do not mind my µ-activity
  わが放射能は恐れるに足らず

                 *「」内引用は太田洋子「屍の街」