アームチェア人智学日記 改

或る奴隷博士の告白

鯨(改)

共謀罪』で目の前の人間が警官に連れ去られていく現場を見た。発言の内容に引っかかるものがあったのである。警官がそれを具体的に指摘した時、彼はしまったという顔をしたが、すぐに警官について去って行った。しかしそれが「凍った鯨の夢」とどう繋がっていたのか。

「凍った鯨の夢」の同行者が彼だったのだろうか。そのとき私には話し相手がいたのだがその姿はなかった、「存在」だけがあった、それが存在というものなのだ(ということを夢が教えたのかもしれない)。 つまり「私」は存在している!と言うことだ。それは私が一番知りたかったことだった(私が「私」と言えば、それは私のことであるが、この夢のなかの「私」は私ではないことに注意を喚起しておこう)。

私たちは大勢でどこかに向かっている(考えてみるとそれは徒歩の遠足であった)。暗い街道沿いに大きな三角形の木造建築があって、それは九龍城の一部のような風格を備えた廃墟寸前の建物である(私はカメラを持ってこなかったことを後悔している)。 その建物は双子で、もう一件が左に密接・おそらく連結している(シャム双生児のように)。最初に気がついた巨大な建築の背後にはそれよりも背の高い重機が既に姿を見せていて、それがすぐにでも破壊される運命を示している。

私たちの遠足は既に目的地に着いた後だったらしい。それでも、私と彼=存在は文字通り北極のように凍り付いた暗い道をたどっている。氷のなかに封じ込められた大きな魚体のようなもの(絶妙に”身体”をくねらせている)を左手に通り過ぎたとき、私は彼=存在に「これは鯨だ」と言ったようだ。明らかに夜が迫っていた。私たちは凍った世界を山の方角に向かって歩き続けていた。このままでは遭難するかも知れない。 そう思ったせいだろうか、ここで夢の連続性が途切れた。宿泊地の相談所らしいところにたどり着いた私たちは車のトラブルを訴えていた。そこで係員らしい男から「もう閉めるところでした。あなたがたが最後です」という言葉を聞いた。

私は「凍った鯨」の場所でもカメラを持ってこなかったことを後悔している。

   *

共謀罪』。
病的にモラルを外在化した人間たちの出現に合わせて社会がモラルである世界を立法化した興味深い試みである。
外側が内側を決定する。
われわれは既に人間=共謀罪に包囲されつつあった。
これは反転したプロレタリアート独裁だ。
すべては外側が決定する。
あらゆる内部は”唯一の外部”のためにある。
この位相幾何学を理解しないものは生き残ることが出来ない。
「私」の私的事態は立法府を先取りしていたのだった。
「完全病者」は既に権力=正義の化身である。
彼は共謀罪の完全なる内面化に成功している。

憑依現象。日本列島憑依。